掛軸(かけじく)は書画など紙や絹に書かれた作品を床の間や壁に掛けて鑑賞を可能にし、なおかつ保存性にも優れた表装方法の一つです。

掛軸の意匠

掛軸は仏教とともに中国よりもたらされ、元々は仏画等崇拝の対象となるものを絢爛に装飾したものでしたが、時代が下るにつれ仏画以外の書画にも用いられるようになり現在では意匠が簡略化されたものが一般的になっています。 意匠の形式には、

  • 真:裱褙(ひょうほえ)とも言い、最も格式高く仏教の信仰対象を荘厳に仕立てる意匠形式
  • 行:幢褙(どうほえ)とも言い、真より砕けた形式で神号・書・山水画・花鳥画など幅広い作品を仕立てる意匠形式
  • 草:輪褙(りんほえ)とも言い、最も砕けた形式で小間の茶室に多く飾られる、主に禅語の一行書などを仕立てる意匠形式

の主要な三体があり、その中で更に三体に分かれています。
それ以外にも文人表具や明朝表具、まったく自由な意匠の創作表具というのもあります。

掛軸の製法

伝統的工芸品の江戸表具はほぼすべての工程を職人の手作業によって作られます。
使用する材料は楮等を用いて漉かれた和紙、糊も植物由来の正麩糊を用いることと規定されています。
掛軸の製法の概要としてはまず、本紙(作品)を補強するために裏打ちをします。
裂地(きれじ)も形体を安定させるために裏打ちを施し、装飾的に周りに順番に張り付けます(切り継ぎ)。全体を裏打ちし(総裏、上裏)、一定期間以上仮張に張り込んで乾燥させます。その後剥がし、裏摺りをかけ、余分を裁ち落とし、巻く時のためと掛けた時の重りとなる軸棒を下に、掛けるための掛け緒を取り付ける八双を上に付けます。風帯がある場合は風帯も縫い付けます。

一般的に用いられる三段表装(行の行)

三段表装は、各部分の裂地がそれぞれ異なる役割を果たしながら、全体として調和の取れた美しい仕上がりを目指す表装形式です。
本紙の上下の細い裂地が一文字、その周りを囲むように中廻し、柱、その上下には天地、天部分には風帯がつけられます。

《掛軸各部の名称》
《掛軸各部の名称》

江戸表具(掛軸)のある生活

近年では住宅環境の変化に伴い床の間や和室がなくなった影響で季節に合わせた掛軸を鑑賞するという機会も失われつつあります。しかし日本にはかつて春夏秋冬や二十四節気に合わせた自分のお気に入りの掛軸を掛け愛でるという文化がありました。江戸表具は床の間や和室といった和空間にとらわれることなく、洋室などにも掛けられるような意匠の物もあります。自分だけのアート作品を様々な壁に掛けて鑑賞できる掛軸にもう一度目を向けて、豊かな日本の文化と共にある生活の一助になれたらと願っています。

掛軸を飾ったリビング
掛軸を飾った書斎
作家:澤田燈
掛軸を飾った寝室
作家:朝永賢弥

伝統的な技術又は技法

  1. 掛軸及び巻子(かんす)にあっては、次の技術または技法によること。
    1. 本紙及び布地の裏打ちは、「肌裏打ち」をした後、「増裏打ち」をすること。
    2. 本紙の周囲に「切継ぎ」をすること。
    3. 打刷毛を用いて「上裏」を行い、乾燥後に「裏摺り」をすること。

経済産業省伝統的工芸品指定の告示より)

江戸表具を新規に作成なさる際や、お使いの表具類を作り替えられる際には、是非伝統的な技術・技法、良き素材のものを用いていただけることを願います。
その施工には江戸表具を継承する東京表具経師内装文化協会の表具師(会員)に、ご用命いただければ幸いです。
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