絵画や書、写真などを木枠や金属枠で囲んで飾るものを一般的に「額(がく)」と呼びます。
作品を保護しつつ鑑賞しやすい形で展示するのがその役割です。
西洋発祥の額(洋額)と異なり、仏教伝来と共に中国から伝わり、日本で独自の変遷をたどり、現在の形となった額を「和額」と呼びます。

初期の額は、神社仏閣などの屋外に掲げられて表札のような役割を担った「篆額(てんがく)」として用いられました。これは、本体も書の部分も全て木材で作られたものでした。
その後は、神社の鳥居や社殿、寺院の本堂などに掲げられている横長の額「 扁額(へんがく)」として広まりました。

その後、江戸時代になると表装の技術が発展し、一般庶民にも書画が身近なものとなり、室内に飾るものとして和額が一般化しました。床の間の掛軸、小壁に掲げる和額は和風建築に欠かせない存在になったと言えます。
明治時代以降、住宅の洋風化に伴い、床の間がなくても飾ることができる額は一層好まれるようになり、現代の美術表装を代表する分野として発展し続けています。

和額の構成としては、「本紙」「本紙周囲の装飾部」「額椽(がくぶち)」となります。それに加えて、「額の形式」も重要な要素となります。

《額各部の名称》
《額各部の名称》

和額の形式

「ベタ張り(平張り)」は襖の下地のような組子に上張りをした上に、本紙をそのまま張ることを言います。額の一般的な形で、凹凸のないフラットな状態に仕上がります。昭和中期くらいまでに仕立てられた額は殆どがこの構造です。 本紙を下地とは別の板に張り、本紙が浮いているように見せる形式は「浮出(うきだし)」と呼ばれます。浮出とは反対に本紙を一段奥まらせる形式は「落とし」や「沈み」と呼ばれます。

本紙周囲の装飾

作品(本紙)の周りの装飾部はマットとも呼ばれます。本紙の魅力を引き立てるための装飾として、金箔・銀箔平押、金銀砂子、緞子裂(どんすぎれ)等が用いられます。

金箔・銀箔平押し

金・銀の箔を押した紙で高級感を感じられる仕上がりとなります。平押しの他に絹目や揉み加工を施したものもあります。箔や加工の種類によって、様々に印象を変える事ができます。

金砂子・銀砂子

細かく砕いた金箔・銀箔をあしらった紙で、金箔・銀箔よりも落ち着いた雰囲気があります。

緞子裂(どんすぎれ)

表装に多く使用されている織物で様々な色・柄があり、それぞれの作品に適した物を選ぶ事が出来ます。

形状・素材 無数の組み合わせから選択できる和額

額の椽(枠)の形状や色には様々な物があり、作品に合わせて最適な物を選ぶことができます。形状としては、角を丸くするか(隅丸)、角にするか(角組)等、様々な選択肢があります。

色については、下記のような選択肢があります。

本桑

最高級の木材といわれ、入手が難しい素材です。塗装はせず美しい木目を生かし使用します。

黒塗

頻繁に用いられ、多くの本紙に合う色です。艶消し・艶ありの塗り方によって印象も変わります。

茶系

チーク・タメ塗り等、元の木目を生かした塗装です。

白木

透明なニスでの塗装、元の木目の美しさを生かします。自然な風合いが魅力です。

朱塗

鮮やかな朱色での塗装です。

上記のように、和額の仕様については、作品に合わせて、無数の組合せを選択することができ、それは表装する表具師にかかっていると言うことができます。

伝統的な技術又は技法

  1. 屏風、額、襖及び衝立にあっては、次の技術又は技法によること。
    1. 下張りは、「骨縛り」、「ベタ貼り」、「蓑張り」、「蓑押え」、「回りすき」、及び「袋張り」によること。
    2. 屏風の蝶番は、「羽根付け」によること。
    3. 仕上げの張り込みは、「上張り」によること。

経済産業省伝統的工芸品指定の告示より)

江戸表具を新規に作成なさる際や、お使いの表具類を作り替えられる際には、是非伝統的な技術・技法、良き素材のものを用いていただけることを願います。
その施工には江戸表具を継承する東京表具経師内装文化協会の表具師(会員)に、ご用命いただければ幸いです。
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